初登場時、ビッグ・ベビーは多くの観客に冷や汗を流させました。なぜ赤ちゃん人形という本来愛されるべき存在が、これほどの戦慄を与えたのでしょうか。その最大の要因は、精巧なエイジング表現と「不気味の谷」を意図的に利用したアニメーション演出にあります。
ビッグ・ベビーの右目は常に半開きで視線が定まらず、肌には経年劣化によるひび割れや、乱暴な園児たちによって付けられた落書きが刻まれています。ピクサーの美術スタッフは、1970年代から1980年代にかけてハズブロ社やマテル社が製造していた「ドリンク&ウェット人形(Baby Aliveなどに代表されるプラスチック・ビニール製の知育人形)」を綿密に研究しました。これらのおもちゃは金属製の重りを使ったスリープアイ機構を備えていますが、経年劣化で片目のバネが壊れ、まぶたが引っかかる現象が現実でも多発します。このリアルな経年損傷を忠実にトレースしたことが、観客の無意識にある「壊れた古い人形への原初的恐怖」を刺激したのです。