この呪術的仕草を世界に知らしめたのが、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』のワンシーンです。ハクが吐き出した銭婆の魔女の契約印を踏み潰してしまった千尋に対し、釜爺は即座に両手の人差し指同士を突き合わせて輪を作り、「切って切って!」と促します。千尋が手刀でその間を「チョップ」のように切り裂いた瞬間、釜爺は「えんがちょ切った!」と叫び、厄落としが完了しました。
劇中で描かれたプロトコルは、民俗学的に極めて正確な手順を踏んでいます。まず穢れに直面した側(釜爺)が親指と人差し指で輪を作り、自身を安全圏に置くための結界を張ります。しかし、この結界は自力で解除することができません。穢れに直接触れていない清浄な第三者(千尋)が手刀を振り下ろし、物理的・象徴的に「悪縁」を切断しなければならないのです。
宮崎駿監督は幼少期の原体験を忠実にアニメーションへ落とし込んでおり、単なる指遊びを超えた「他者との儀礼的相互作用」を見事に映像化しました。このシーンの公開以降、失われつつあった「えんがちょ切った」の作法は、再び若い世代の間で共通言語として息を吹き返しました。