ここで多くの人が「仕掛けがあったのなら、誰でもできるのではないか」と誤解しがちですが、現実は全く異なります。このパフォーマンスの恐ろしさは、「ギミックを明かされたところで、普通の人間には絶対に再現できない」という点にあります。
2018年、インドの神経外科医チームが世界的な医学誌『ジャーナル・オブ・ニューロサージャリー(Journal of Neurosurgery)』において、このゼロ・グラヴィティの生体力学的メカニズムを真面目に分析した論文を発表し、大きな話題を呼びました。
通常、人間が足首を支点にして前傾姿勢をとった場合、直立状態から倒れ込める角度はせいぜい25度〜30度が限界とされています。これ以上倒れれば、重心が足の支持基底面を外れ、転倒を防ぐために必ず膝が曲がるか、一歩前に足を踏み出す反射が働きます。支点となるのは脊柱起立筋を中心とした背中の筋肉です。
しかし、踵を床に固定して45度まで倒れる場合、負荷の集中する部位が劇的に変化します。医学チームの報告によると、負荷は背中ではなく、「アキレス腱」および「ヒラメ筋・腓腹筋(ふくらはぎ)」に集約され、全体重の数倍に匹敵する強烈な張力が足首一点にかかります。
医師らは論文の中で、「高度に訓練されたプロのダンサーであっても、踵を固定して再現できるのはせいぜい25度から32度程度。45度まで体を伸ばし、そこから体幹の力だけで元の垂直位置へ引き戻す動作は、常人であればアキレス腱断裂や重篤な筋損傷を引き起こす」と結論づけています。専用シューズは単に「足が床から離れないようにするアンカー」に過ぎず、倒れた身体を支え、自力で引き起こしていたのは、マイケルの極限まで鍛え上げられた体幹と強靭なインナーマッスルだったのです。