太地町立くじらの博物館が世界中の研究者や旅行者から注視される最大の理由は、ここが単なる水族館ではなく、400年を超える日本の捕鯨文化を体系的に保存・展示する唯一無二の拠点である点にあります。慶長11年(1606年)に太地頼元らによって始められた組織的捕鯨、そして延宝3年(1675年)に考案された「網掛け突き捕法」など、日本の海洋民俗史を語る上で欠かせない一次資料が網羅されています。
館内中央の吹き抜けにそびえ立つ体長約15メートルのセミクジラ実物大模型と、その頭上に吊り下げられた全身骨格標本は圧巻の一言です。捕鯨の歴史のみならず、鯨類の進化の過程、鯨骨や鯨油の利用技術に至るまで、学術的なアプローチによる展示が徹底されています。「命を余すところなく使い切る」という先人たちの知恵と自然への畏怖は、地域の伝統文化として2016年に「鯨とともに生きる」というストーリーで日本遺産に認定され、節目を刻みながら継承されています。