動画文化における日本特有のミーム製造工場として外せないのが、2000年代後半に最盛期を迎えたニコニコ動画と、そこで洗練された音MAD(おとまっど)文化です。海外のミームが静止画やGIFアニメを中心としていたのに対し、日本のユーザーは特定の映像と音声を素材(マテリアル)として細かく刻み、楽曲のリズムやメロディに合わせて再構築する緻密な音楽的パロディを発展させました。
この文化圏では、ひとたび優れた「元凶(ブームの火付け役となった動画)」が登場すると、他のクリエイターたちが一斉に同じ楽曲や素材を用いて派生動画を制作する連鎖反応(リレー構造)が起きます。コメント機能によって画面上にリアルタイムのツッコミが書き込まれ、特定のフレーズが弾幕となって視覚化されることで、視聴者全員が参加する共犯関係が築かれていきました。
この「素材を徹底的に擦り倒し、全員でフォーマットを共有して変奏を楽しむ」という鑑賞態度は、現在のショート動画プラットフォームにおける「トレンド音源を使ったダンスや寸劇」のフォーマットと完全に同一の遺伝子を持っています。ニコ動のアンダーグラウンドな職人芸として培われた技術とノリが、プラットフォームのUIを変えながら現代のマスカルチャーへと接続されています。