ABO式血液型の正体は、赤血球の表面に存在する糖鎖の違いです。第9番染色体に座乗するABO遺伝子が酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)を作り出し、これがH抗原と呼ばれる基底構造に特定の糖を結合させます。A型転移酵素はN-アセチルガラクトサミンを結合させ、B型転移酵素はガラクトースを結合させます。
では、O型とは何なのでしょうか。遺伝子解析が明らかにした結論は極めて明快でした。O型遺伝子(代表的なO01アレル)の正体は、A型酵素遺伝子の第6エキソンにおける「261番目のグアニン(G)の欠失」という単一の変異です。このフレームシフト変異により、翻訳途中で終止コドンが出現し、酵素活性を完全に失った短縮タンパク質が生成されます。その結果、糖が付加されず、土台であるH抗原がそのまま露出した状態こそがO型なのです。
チンパンジーやボノボなど現生類人猿の遺伝的多様性を比較した分子系統樹の研究では、ヒトとチンパンジーの分岐点(約600万〜700万年前)よりもはるか昔から複相的な対立遺伝子が存在していたことが分かっています。祖先型と目されるのはA型機能を持つ遺伝子であり、酵素活性を持たないO型変異は、人類の進化過程において複数回、独立して発生・定着した「機能喪失型」の変異であることが実証されています。