「社会に役立つ秘宝館」という言葉を初めて目にした人の大半は、「公的な博物館なのか」「それとも全国に現存する珍スポットの生き残りなのか」と疑問を抱きます。結論から言えば、これは実在する単一の行政施設や博物館の正式名称ではありません。昭和の観光地を彩ったエロティックな見せ物小屋的「秘宝館」と、カルト映画や実録ヤクザ映画の過激な人間模様を「社会勉強」として昇華してきたサブカルチャー文脈が掛け合わされた、極めてコンセプチュアルな概念です。
昭和後期から平成初期にかけて、熱海や嬉野などの温泉街に作られた「秘宝館」は、性にまつわる奇想天外な蝋人形や民俗資料を陳列し、大人の知的好奇心をくすぐる空間として一世を風靡しました。一方で、90年代からゼロ年代にかけて開花した日本のサブカルチャー界では、そうした悪趣味とされるもの、いわゆるB級カルチャーやカルト映画から「人生の本質」を逆説的に読み解く批評スタイルが確立されました。
「社会に役立つ」という真面目くさった看板を掲げながら、その中身は人間の欲望、暴力、滑稽さが渦巻く猥雑な世界――この強烈なアイロニーこそが、好事家たちの間で語り継がれる「社会に役立つ秘宝館」というイメージの核心です。