映画『天気の子』における音楽制作は、一般的な「完成した映像に主題歌を乗せる」というタイアップの枠組みを完全に逸脱した場所からスタートしました。公式発表資料および当時の制作陣の証言によると、新海誠監督が野田洋次郎氏に脚本の第一稿を送ったのは2017年8月のこと。「愛にできることはまだあるかい」の原型となるデモ音源は、まだ絵コンテすら完成していない段階で新海監督のもとへ届けられました。
当時の特番インタビューや公式パンフレットの手記において、新海監督は「洋次郎の歌詞を読んで、主人公・帆高と陽菜がどのような結末を選ぶべきか、映画の進むべき道筋が明確になった」という趣旨の告白を残しています。つまり、この楽曲は映画を彩る装飾ではなく、物語の核心そのものを決定づける羅針盤として機能していたのです。
さらに、アルバム『天気の子』のリリース時に公開された音楽ジャーナリスト・柴那典氏によるオフィシャルインタビューでは、ロックバンドとしてのRADWIMPSが直面していた葛藤と覚悟が克明に紐解かれています。『前前前世』という国民的ロックアンセムの後に、あえて7分近くに及ぶ重厚なバラードをメインテーマに据えること。柴氏の取材に対し、野田氏をはじめとするメンバー(桑原彰氏、武田祐介氏)は、バンドサウンドという既存のフォーマットに固執せず、「映画の物語が求める最も純粋な音楽を鳴らす」という決断を下したことを明かしています。その結晶が、三浦透子氏をボーカルに迎えた『グランドエスケープ』であり、野田氏が一人で孤独と向き合いながら紡ぎ出した「愛にできることはまだあるかい」でした。
| 時期・日付 | 『天気の子』および楽曲制作の主な出来事 | 制作上の重要な転換点・備考 |
|---|---|---|
| 2017年8月 | 新海誠監督から野田洋次郎氏へ脚本第一稿が送付される | 「愛にできることはまだあるかい」の初期デモ制作に着手 |
| 2018年〜2019年春 | ビデオコンテ作業と並行し、1年以上にわたり歌詞とアレンジを改稿 | 新海監督との往復書簡のようなやり取りで物語の結末が深化 |
| 2019年7月19日 | 映画『天気の子』全国公開・同名アルバム発売・MV同時解禁 | 永戸鉄也氏監督による光と影を活かしたMVが大きな話題に |
| 2019年11月27日 | 『天気の子 complete version』リリース | 主題歌5曲のフルサイズ音源および英語バージョンを完全収録 |