『名探偵コナン 水平線上の陰謀』を語る上で絶対に外せないのが、毛利小五郎が江戸川コナンよりも先に真犯人を見抜いた唯一無二のプロットです。普段はコナン(工藤新一)の麻酔銃によって「眠りの小五郎」として操られ、滑稽な推理を披露する小五郎が、本作では最初から最後まで自身の足と頭脳で事件の核心へと肉薄します。
物語の舞台は、太平洋を航行する巨大豪華客船「アフロディーテ号」。華やかな処女航海の裏で、15年前に起きた貨物船沈没事故と半月前の自動車事故が複雑に交錯する連続殺人事件が発生します。コナンは鋭い洞察力でトリックを暴き、ある人物を犯人として追い詰めますが、そこには巧妙に仕組まれた「真犯人の罠」が存在していました。
小五郎は、容疑者の一人である設計士・秋吉美波子に対して抱いた違和感を決して見逃しませんでした。その違和感の根底にあったのは、別居中の最愛の妻・妃英理に面影が似ていたという感情です。「お前があいつ(英理)に似ていたから、無実であってほしくて必死に証拠を探した。その結果、お前が犯人だという動かぬ証拠ばかりが集まってしまった」という小五郎の告白は、劇場版シリーズ屈指の名台詞として語り継がれています。
テレビアニメ初期の傑作エピソード「同窓会殺人事件」でも見せたように、小五郎は「自分の身近な人や、感情移入した相手を疑わなければならない極限状態」において、コナンをも凌ぐ超人的な執念と観察眼を発揮します。論理的パズルを解くコナンに対し、人間の情動と弱さを知る大人だからこそ到達できた小五郎の推理は、本作の最大の白眉です。