全国トップクラスの評価を受け、客足が途絶えることのなかった名店が、なぜ突如として厨房の火を落とさなければならなかったのでしょうか。そこには、個人経営のカリスマラーメン店が抱える構造的な限界と、店主の徹底した職人魂が深く関係しています。
「麺や 紡」は、大阪府東大阪市の名店「麺や ひなた」での修業を経た店主が独立し、茨木市宇野辺にオープンさせた店舗です。開業以来、厨房で全ての調理と麺上げを一手に担う店主と、ホールでの接客や行列整理、会計を完璧にこなす奥様の「完全なる夫婦二人三脚」で営業を続けてきました。
同店の看板メニューである濃厚な鶏白湯の「熟成らー麺」と、透き通るような旨味の「淡成(たんせい)らー麺」は、大量の鶏ガラやモミジを長時間炊き出し、さらに魚介出汁を絶妙なバランスで合わせる極めて繊細な工程を要します。さらに、店内に設置された製麺機で毎朝打たれる自家製麺は、その日の気温や湿度に合わせて加水率や熟成時間を微調整するという徹底ぶりでした。
常連客の間では以前から、「店主の腰や腕への負担が限界に近いのではないか」と心配する声が上がっていました。実際、同店は過去にも店主の体調不良やメンテナンスのために数週間から数ヶ月単位の休業を挟んだ経緯があります。弟子やアルバイトを雇って味をブレさせることを良しとせず、全ての工程を自らの目と手で行う職人気質が、結果として代わりのきかない過酷な労働環境を生んでいたことは否定できません。