橘寺の天井画が単なる装飾を超えて高い芸術的評価を獲得している理由は、制作に携わった画家たちの圧倒的な力量にあります。この260枚は、日本美術院(院展)や日展で第一線を走る現代の日本画家をはじめとする有志の手によって、一枚一枚心を込めて描かれ奉納された肉筆画です。
岩絵の具特有の粒子感、金泥(きんでい)を散りばめた荘厳な背景、繊細な筆致による写生的な描写。伝統的な日本画の技法に立脚しながらも、現代の画家たちが持つ自由な色彩感覚と自然への観察眼が随所に光ります。古典的な寺院天井画にありがちな形式的な意匠とは一線を画し、どの花も今まさに露を含んでほころんだかのような生気を帯びています。
文化財保護の観点から薄暗い照明やガラス越しでの鑑賞を強いられる寺宝が多い中、橘寺の往生院では肉眼で至近距離から筆使いの息遣いを感じ取ることができます。1400年の古代史が息づく空間に、平成の絵師たちが残した息吹が同居する様は、信仰と芸術が常に現在進行形で更新され続けていることの動かぬ証拠です。