夏川結衣のキャリアの始点は、カメラの前で静かに服をまとうファッションモデルとしての鍛錬にあった。1980年代末から1990年代初頭、女性誌『non-no』の専属モデルとして誌面を飾った彼女は、当時のトレンドであった派手さとは一線を画す、清冽な眼差しと瑞々しい輪郭で読者を魅了した。装飾を削ぎ落としたシンプルなカットでも視線を引きつけるそのフォトジェニックな資質は、演出家たちの目を惹きつけるのに時間はかからなかった。
女優としての第一歩を踏み出したのは、1992年に放送されたフジテレビ系木曜劇場『愛という名のもとに』である。野島伸司脚本による本作は、バブル崩壊前夜の若者たちの苦悩と群像劇を赤裸々に描き出し、社会現象を巻き起こした。夏川は本作で神野美紀(のちに青年実業家・塚原純と関わる重要な役どころ)を演じ、演技経験の浅さを感じさせない直截な佇まいで視聴者に強い爪痕を残した。単なる流行ドラマの華やかな添え物ではなく、過酷な現実と向き合う生身の女性像を提示したことが、役者・夏川結衣のプロローグとなった。